はじめに

「増税時代元年」の税制改正

政府は、平成23年12月24日、一般会計総額が90兆3千億円となる「平成24年度予算案」を閣議決定しました。

前年度から見ると2兆円余り少ないように見えますが、一般会計から切り離した「基礎年金の国庫負担分」と特別会計の「東日本大震災復興費」を加えると、総額で過去最大の96兆7千億円の規模となります。

概略は下記のとおりです。(四捨五入のため合計が合わない場合があります)

 

Ⅰ.平成24年度予算のポイント <7つのポイント>
  1. 税収が3年連続で新規国債発行額を下回る。年の「収入」よりも、新たな借金を多くしないと「支出」がまかなえない状態が続く。
  2. 国債依存度は49%と前年に引き続き最高水準。国の借金の総額は954兆円・対GDP比の200%超へ(先進国の中で突出)。
  3. 基礎年金の国庫負担分(50%負担・2.6兆円)については、交付国債で先送りをする。
  4. 東日本大震災復興費3.8兆円については、特別会計を新設する。
  5. 社会保障費26.4兆円は、昨年度比8.1%減であるが、昨年度まで一般会計だった基礎年金の国庫負担分を入れると、0.4%の増。
  6. 一般会計ベースの公共事業費は前年度を下回るが、震災復興費を加えると5.3兆円とプラスに転じる。
  7. 特別枠の「日本再生重点化措置」は、当初見込みより増額され1兆円強の予算となる。「成長戦略」「教育・雇用」「地域活性化」「安心・安全社会の実現」の4分野。

今回の特徴としては、一般会計の歳出は前年度を下回り、「歳出削減予算」という形に「一応」はなっています。国債の新規発行額も前年度当初比の0.1%減として「財政計画上の基準」は「一応」保った形です。しかし、二つの注意点があります。

一つ目は、基礎年金を維持するための50%の国庫負担分2.6兆円を、「将来の消費税の増税」で穴埋めをするという「約束手形の発行」のような「年金交付国債」を使って調達します。これは前年度までは一般会計で計上され、いわゆる埋蔵金で手当したものです。

二つ目は、東日本大震災復興のための歳入・歳出は一般会計に含めず、「特別会計」を新設しました。

これらを入れると「過去最大規模の予算」となり、見かけ以上に「国債頼み」と「将来の増税頼み」の予算となっています。

現在の日本の予算を考える上で最大の課題は「社会保障費(26.4兆円)」です。その根本は「急速な少子高齢化」という避け難い「人口構造の変化」で、歳入・歳出の両面に重大な影響があります。半世紀前は10人の現役世代で一人のお年寄りを支えていましたが(お御輿型)、近年は3人に一人(騎馬戦型)となり、2050年には1.2人で一人のお年寄りを支える社会(肩車型)になっていきます。社会保障費の自然増は毎年1兆円に達しており「持続可能な制度」の構築が急務です。

 

Ⅱ.「三段階」に分かれている税制改正

このような予算編成の基礎となった平成24年度の税制改正ですが、今回の税制改正は三段階に分かれており、これは過去に前例がありません。

  1. 既に改正が「確定」している「税制改正」の内容
    昨年の「平成23年度税制改正案」は、ねじれ国会に加え、審議中に起こった東日本大震災で不成立となってしまった。その「23年度の持越しの一部」が「税制構築法」として昨年11月30日に成立し、同時に東日本大震災の「復興特別税」を創設する「復興財源確保法」も成立した。これらの改正内容は、平成24年度より実施されることが既に確定している。
  2. 昨年12月10日に発表された「平成24年度税制改正大綱」の内容
    これからの通常国会を経て、成立すれば平成24年4月から実施予定。例年、「来年度の税制改正」とはこの「税制改正大綱」の内容を指している。
  3. 「社会保障と税の一体改革」の「税制抜本改革 素案」の内容
    昨年12月29日・30日に民主党と政府の両税制調査会にて、「社会保障と税の一体改革」の中の「税制抜本改革 素案」が了承された。政府は今後の与野党協議を経て、「大綱」としてまとめ、今年度中に法案として国会提出を予定している。消費税引き上げの内容及びこれに伴う他の税の方向性が示されている。まだ、政府と民主党の中での「了承案」で、2.のレベルよりは「手前」の段階である。

 

Ⅲ.税制改正の3つの特徴

■特徴1 消費税の引き上げ

消費税の税率を、平成26年4月1日に8%へ、平成27年10月1日に10%へそれぞれ引き上げを行います。そして、社会保障4経費(医療・介護・年金・少子化対策)に充てることを明確にし、「消費税の社会保障財源化」をします。
「税制抜本改革 素案」の中には、引き上げの必要性について次のように書かれています。

「・・・消費税収に比べ、高齢者3経費(基礎年金・老人医療・介護)は急速に増加し、
更なる高齢化の進展による社会保障の増加に対応できない状況・・・」
「・・・子どもからお年寄りまで国民生活の安心を確保する全世代対応型の社会保障制度を
築き上げるとともに、その財源についても、幅広い国民が負担を分かち合う仕組みを
作らなければならない・・・」

確かに、今から「50年前」と「40年後」で一人のお年寄りを支える現役世代が10人から1人強に急減してしまうことや、諸外国との比較でも日本の消費税はまだ低いことを鑑みれば、「持続可能」な制度構築のためには引き上げはやむを得ないのでしょう。

しかしその一方で「増税の絶対条件」としては、「議員定数の削減」や「特別会計等の行政改革」などが必須であるはずで、これは素案の中でも明記されています。

また、例えば年金分野など「給付」と「負担(税と保険料)」について、「物価スライド特例分の解消」など「バランス」を確実にとらないと「持続可能」にはなり得ません。

更に、平成9年の5%への引き上げ時には、経済・金融不安の真っ只中において、更に複数の国民負担増が相まって、経済失速してしまった教訓があります。今回の実際の引き上げ時には、慎重な「経済状況判断」が絶対に重要です。

■特徴2 復興特別税の創設

復興債の償還のため、復興特別法人税を3年間・復興特別所得税を25年間・個人住民税均等割りの引き上げを10年間行います。ただし、法人税については、当初予定されていた税率の引き下げを同時に行っていき、現在との均衡を図ります。

ここで「増税全体」について考えてみると、上述の「消費税の増税」を「一つ目の増税」とすれば、復興特別税は「二つ目の増税」です。

更に、「三つ目の増税」として「23年度の持越し増税」があります。現政権が昨年において目指した「平成23年度の税制改正案」は、「増税色」が強い改正案でしたが、前述の通り不成立となりました。しかしその増税の内容は、「24年度税制改正大綱」及び「税制抜本改革 素案」にかなりの部分が入っています。

つまり、現時点の予定では「3つの増税」を同時期に実施することとなっています。

現在の日本経済の状況下で、これら3つを本当に「吸収」できるのかどうか、疑問です。

「増税回避」するとしたら、「消費税」は「持続可能な社会保障」のためには回避がなかなか難しいでしょうから、「復興特別税」と「23年度の持越し増税」でしょう。

例えば復興財源について、「税」ではなく、各種の特別会計の取り崩しのための法改正をしてでも、財源の再検討を行なう。特別会計として最低限の危機管理部分を残し、未曽有の大災害時の緊急避難措置として取り崩すこともやむを得ないのでは、と思います。

更に「復興債の日銀引き受け」です。「財政規律」や「インフレ」を考えての反対論は強く、平時では絶対に考えられませんが、「3つの増税よりは、あり得る」のではと思います。「未曽有の大災害時」かつ「長期デフレ状態」ですから、日本のGDPから見た復興債の規模から考えても、十分検討の余地があるように思います。
日本経済をこれ以上悪化させないことは、「復興」の前提だと思うのです。

■特徴3 所得の再配分機能の強化

「格差是正と所得の再分配機能の強化」は、現政権の税制に対する最も基本的な考え方です。
今回の税制改正では、「大綱」や「素案」にこの考え方が相当入っており、具体的には、所得税について「1,500万円を超える給与所得者に対しての給与所得控除の削減」や「最高税率の引き上げ」「上場株式の配当・譲渡への軽減税率(10%)の廃止の確実な実施」など、相続税については、「相続税の基礎控除(非課税枠)の4割縮減」や「最高税率の引き上げ」などが予定されています。
確かにこれはひとつの考え方ではあるのでしょう。「取りやすいところから取るので、世論の反発を受けにくい。」ということでもあるのでしょう。

しかし、気をつけなければならないことは、1,500万円を超える給与所得者の人口は50万人弱しかおらず、また、相続税を納めている相続人の数はそもそも12万人程度だと言うことです。対象者と範囲が狭いですから、効果には限界があり、限度を超えると、逆に「税収・・・得られるもの」以上に弊害も出てくると言われています。

なぜかと言うと、好むと好まざるとに関わらず、もはや「税金」は、「国内だけの政策や都合」で結論付けられるものではないからです。「その国への投資意欲や事業意欲・消費意欲」の観点から、「諸外国との税金の国際比較」をされる対象だからです。

経済閣僚の中から、今回の改正を受けて「人や企業が納税する場所を選ぶ時代。(税負担が)過度になると、(海外へ)逃げてしまう。」とのコメントもあります。

また、民主党の「素案」の中でも、上場株式の配当・譲渡税率について「本来、すべての所得を合算する総合課税が理想だが諸外国の潮流が簡素な分離課税の中…(中略)」と自ら触れているとおり、「あるべき理想」だけでなく「国際比較」せざるを得ません

「経済対策の国策として、相続税のない国・低い国」は世界に結構あります。
「経済対策の国策として、税制で金融投資や事業活動の優遇をしている国」も多くあります。

この部分に「税を高率で課す」効果よりも、例えば、(時々話題には出ますが)相続税非課税の超長期60年償還期間の無利子国債の発行をして復興財源に充て、「復興特別税」を一部停止するなど、所得や資産を使って「広い経済効果」に期待するとか、株式市場の低迷の中、軽減税率の廃止には「景気弾力条項を付ける」など、検討の余地はあるのではないでしょうか。

これは「法人税」についても同じで、法人税率は、EU諸国やアジア諸国は30%前後から20%台半ばの国々が主流なのに比べ、日本の実効税率は「40%」と世界トップ水準です。復興特別税が終了する3年後でも、35%です。その頃には、諸外国は一段と法人税の引き下げをして「企業誘致」をしているかも知れません。
「税金が足らなければ、企業からとればよい」という議論はよくあります。

しかし現実として、企業は「高い税金」と「強い規制」を嫌い、「税金など企業コストの安さ」「活動障壁の低さ」を魅力に感じます。特に、世界的に展開している企業であれば、アジアの拠点を日本以外に移しかねず、縛り付けておくことなどできません。

また、数十年前のように「アジアで唯一の先進大国である」という状況は遠い昔であり、「中国・インド・ASEAN諸国」など日本と同規模又はそれ以上の「経済圏」が急迫してきています。

しかし世界から見て、「高い税金」「厳しい労働規制」「外国との経済連携の出遅れ」など、よく「6重苦」とも「7重苦」とも言われる日本です。「投資」「事業」に魅力ある「日本」であり続けないと、投資家・企業を呼び込めないばかりか、「別に日本にいる必要はない」と出て行くことを後押ししてしまう恐れが出てきてしまいます。

このような時期こそ、日本としてどのような「成長戦略」を示していくのか。
「GO  FORWARD」。「雇用」を創出するのも「企業」です。日本の信用基盤の根本は、企業・特に中小企業の「技術とノウハウ」です。

 

それでは次ページ以降、平成24年度税制改正について、「既に確定している分」「税制改正大綱」「税制抜本改革素案」に分けてご覧下さい。