「会社の承継」で大事なこと パート1
2021/07/09
「会社の承継」に関するさまざまなご相談が増えています。
昨年4月以来のコロナ禍では、「この非常時で、予定していた息子への社長交代を延期した方がいいだろうか?」などコロナの影響による延期のご相談がいくつもありました。逆に「コロナで、事業のやり方が大きく変わるので、これを機会に、息子への社長交代を早めたいと思うが...」といったご相談もいくつもあり、「事業承継は、会社の数だけある」という言葉を真に痛感しました。
今月のとぴっくすは「会社の承継」で大事なこと...です。
承継の種類とそれぞれで「最も大事なこと」
会社・事業の承継には3種類あります
- 子どもに継がせる「親族承継」
- 役員・社員に継がせる「社内承継」
- 他社に引き継いでもらう「第三者承継(M&A)」
そして、「会社の承継=社長の交代」でありません。
「会社・事業の承継」とは、次の「3つの交代」がポイントであり、この3つをどう引き継ぐかが「事業承継対策」です。
1社長の交代
2株主の交代
3信用の交代
(1)子どもに継がせる「親族承継」
「子ども」や「子どもの配偶者...娘の夫など」への引継ぎは、現在でもやはり一番多い承継スタイルです。
特徴は「相続人(又は相続人の配偶者)」への引継ぎである点です。相続人である「子ども」への引継ぎですから、「②株主の交代」は、自社株式を「親から子へ」という自然体として「相続(又は贈与)」での引継ぎが行えます。また銀行から見た「③信用の交代」も、会社の借入れの際に担保提供している個人所有の土地を含め、親の財産を相続にて引き継ぐケースですので、銀行の理解が得られ易いと言えます。
しかし、「信用」とは銀行からだけではありません。
取引先や社内から見た「信用の交代」は、本人の実力いかんです。この点は、「子ども」だから自然体で...と言う訳にはいきません。また、当然と言えますが、「①社長の交代」も、周囲が認めて初めて「真の社長」となり得ます。「承継」とは、本来次のように分かれるものです。
有形の財産 | 無形の財産 | |
会社承継 (事業承継) |
・自社株式 ・会社が使う不動産( 工場や店舗など) ・会社借入の担保不動産 ・会社への貸付金 など |
・社外と社内からの社長としての信頼 ・創業者の想い ・経営理念 ・培われた企業信用 ・顧客、取引先、社員など |
個人承継 (財産承継) |
・自宅 ・賃貸マンション ・預金や上場株式 ・個人所有の車 ・お墓や仏壇 など |
・教育( 親の背中) ・親の想いや家風 ・親の信用と人望 など |
「有形の財産」は、様々な事業承継対策の対象になり得て、万が一の時の遺言や遺産分割協議書に書かれますが、「無形の財産」こそ、ひとつひとつ一日一日を積み重ねて、地道に丁寧に承継が必要なもので、「会社の承継」の真の要諦と言えます。その場合に、「親族承継」は、創業者(親)の想いや苦労を「長く間近で見ている存在=子ども」の引継ぎであるからこそ、「不易...変わらぬ大切さ」を最も継ぐことのできる重要な承継スタイルですので、この点を大切にしてほしいと思います。
(2)役員・社員に継がせる「社内承継」
親族承継が難しい場合に次に考えるのが、「社内承継...幹部・従業員等への承継」となります。
メリットとしては、仕事を全て熟知している存在への引継ぎなので、「業務としての引継ぎ」はスムーズであり、また、引継ぎ候補がいつも社内にいるので、取引先などへの「周知」も一定の期間をかけて行い易く、「①社長の交代」は衆目一致できるところでもあります。
問題は「②株主の交代」で、創業者の株式の承継をどうするかです。
親族承継のように「相続・贈与」と言う訳にはいかず、また、よい会社であればあるほど、会社の内部留保が多額で引継ぎに難を要します。株式の問題を先送りにしたまま、創業者に相続が起きた場合、会社を継がない相続人が大株主となり、その相続人が経営陣に協力的だったとしても、「自社株式」の相続税をどうするかが問題となります。
また銀行から見た「③信用の交代」も、担保提供している創業者の所有の土地を、会社を継がない相続人が相続してしまい、経営陣が財産を相続にて引き継ぐことがないため、取引銀行からの信用も新たに得なければなりません。個人保証の行方の問題もあります。
更に、家族(主に配偶者)の同意も得る必要があります。
このように、「②株主の交代」及び「③信用の交代」をハードルとして超える必要が出てきますので、実情に合った対策が必要となります。
(3)他社に引き継いでもらう「第三者承継(M&A)」
社内承継も難しい場合には、第三者承継(M&A)の検討です。
引き継ぎ手の会社が、100%株主となり、銀行信用も引き継ぎ手の会社の与信範囲となるため、この点には問題は生じません。
「社長=経営陣の交代」については、引き継ぎ手の会社から新経営陣が就任し、現経営陣は全て退任するケースが多いですが、引き継ぎ手の会社と異業種であったり、事業が特殊であったりすると、現経営陣にしばらく経営をしていて欲しいという時もあり、その場合には、総務部長や非常勤取締役、監査役などのみに、引き継ぎ手の会社から就任するケースもあります。
また、社長が技術顧問や相談役としてしばらく残るなどのケースもあります。ほとんどのケースで社名は変わりませんし、社員についても継続した雇用を要望し、雇用継続となるケースがほとんどです。「金額的な諸条件」と「金額に表れない諸条件」をしっかり合意し、引継いで貰えるかが重要です。
新聞や経済雑誌・経済番組を見ていますと、「中小企業の後継者不足」に関する記事や「第三者承継~いわゆるM&Aを視野に入れた事業承継対策」が毎日のように目に飛び込んできます。
確かに、「後継者のいない会社にはM&Aの道がある」ことは事実ですし、最近では政府もM&Aに関し補助金を出すなど、様々な政府系の機関も推進をしております。
しかしながら、事業承継や相続に関することは、現社長にとっては非常にデリケートな話題と言えます。兄弟の仲など、その他のお話にも絡むケースが多く「どのタイミングで第三者承継(M&A)の相談した方が良いのか」とのご質問も多数お聞きします。
この場合に、やはり会社としての準備や配偶者・家族への話などに1年程度は要し、それから相手探しに着手し...という期間を考えると、早めに構想をし、内々であっても体制を整えていくことが、最も大切です。
相手探しにおいても、直ぐに適任が見つかるケースもある反面、なかなか見つからないケースなど様々です。こう見ていくと第三者承継(M&A)は、決断後3~5年程度は見た方がよいと思います。