M&Aで会社を護る。会社を引き受ける。
2025/07/09
「中小企業のM&A」は、この10 年で大きく変わりました。
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①「中小企業M&A」の実情とは...
令和7 年4 月16 日付けの日経新聞によると、2024 年度(令和6 年4 月~令和7 年3 月)に日本企業の関わったM&Aの件数は、前年度比にて「11%増の過去最多」だったそうです。
当社の顧問先の方からのM&Aに関するご相談の状況をみますと、現在は月に1 ~3 件ほどのペースです。内容としては、やはり「後継者が不在」によるM&Aの相談が最も多い内容です。
しかし、近年は傾向が少し変化し、あえて子どもには継がせず、M&Aを選択して、「自社とシナジー効果のある会社」や「大きなグループ経営をしている会社」に引き継いでもらう選択をする、という案件も徐々に見受けるようになりました。
これは時代的な背景があり、今、全国的に様々な「不足」が問題となっております。" 人手不足・設備不足・資金不足・許認可や資格者の不足..." なども数多くお聞きします。
そのような時代背景の中、他社との「シナジー効果」や「グループ戦略効果」を期待してM&Aを決断し、引継ぎ後も一定期間は、その会社のトップとして、経営を指揮していくM&Aも徐々に増えている感もあります。
②A建設会社の事例...「早くからの意思疎通が望まれた」
A建設会社は、二代続くその地域では名の通った建設会社です。技術力・営業力は非常に高く、一般住宅・工場・物流倉庫・店舗から病医院まで、幅広い建設において定評です。
経営面は、原材料の高騰や人手不足の問題に直面はしておりましたが、A社長曰く「お客様に恵まれたこと」と「業歴を強みとして、資材や人材の確保に様々なルートが活かせた」ことで、昨年はこの10 年での最高益を計上しておりました。
しかし昨年の春に行われた健康診断で社長の病気が発覚。早期だったため、大事には至りませんでしたが、今後の事を考え、当社へご相談をいただきました。
社長の長男はITエンジニアとして活躍され、東京で就職し、妻子もいます。次男は地元で結婚・就職をしましたが、畑違いの会社です。
突然、降って湧いたような話です。長男にも次男にも、会社の後継のことは一度も話をしたことはなく、今までは社長も漠然と「どちらかが三代目として継いでくれればいいな...」と思っていた程度でした。
「創業30 年超の老舗企業の事業承継に関する意識調査」(㈱日本M&Aセンター調べ)に、「子どもの" 継ぐ意志" を確認していますか」との問いに対する回答が公表されています。
この調査では、親族承継において後継者(ないし後継者候補)へしっかりと意思確認できているのは32%と3 分の1 程度であることが明らかとなりました。経営者は「自分の子どもは、ある程度会社のことは分かっているだろう...」と思いがちですが、意外と理解されていないのが実情です。
今回のA建設のケースでも、子どもたちからすれば、「父親は何も言わないから、継がなくてもよいのだろう。会社の幹部が継ぐのだろう...」、と思っていたそうです。自分から父親に" 尋ねる" という場面はありませんでした。
また兄弟間でも、弟からすれば「順番では兄がいるし...」、兄からすれば「自分は東京だから、地元には弟がいるし...」などの思いになることも、不自然ではありません。
加えて、会社の「事業そのもの」、何を建てている建設会社なのか、売上など会社規模は...、どんなお客様がいるのか...などは、子どもたちには分かりようもありません。
社長からすれば、長男・次男とも、学生の頃、夏休みにはアルバイトで働いたこともあるので、分かってくれているだろう、との考えもあったとのことでした。
自分の病気、会社の事業の現状、既存顧客や地域との関係性、また共に働いてくれた社員に対する想いなど、数度にわたり話し合いを持ちました。しかし、「急に建設業へ...」という戸惑いや、事業に対する責任、現在の仕事・家族のことなど様々なことを考慮した結果、子ども達への親族承継は断念をせざるを得ない、との判断となりました。
日本商工会議所「事業承継に関するアンケート」(2024.4)において、事業承継を考え始めてから完了までの「時間」についての回答が出ています。
まず、「事業承継を考えてから、後継者の決定・承諾までの時間」です。
事業承継を意識してから「後継者を決定、承諾までの時間」は、全体の3 分の2 の方が1 年以上は要し、4 割を超える方が3 年以上かかっていることが見て取れます。
次に、「後継者の決定から、代表者の交代や自社株式の引継ぎ」までどれぐらいの時間が掛かったかも公表されていますので見てみましょう。
事業承継の完了までには、3 年未満で完了という方は、全体の4 分の1 に届かず、5 割を超える方が5 年以上かかることが確認できます。
「事業承継の完了」と言っても家族ごとに考え方が違いますし、代表権や株式の移動をもって事業承継の完了とは言い難いこともありますから一様に判断できませんが、時間が掛かることは事実です。
子どもに会社を「継がせたい」という場合、次に示すような「うちの会社とは...」と「うちの会社を継ぐ時は...」を、「少しずつ長い期間」をかけて、自分の言葉で伝えておくことが、非常に大切なことではと思っています。
<<うちの会社とは...>> ○ うちの「会社の事業」はこんな仕事。 ○ 取引先やお客様に対して、こんなことでお役に立っていて、そこがうちの「強み」だ。 ○ うちの会社を継ぐとこんな「やりがい」がある。 ○ うちの会社には、こんな幹部・社員がいて、みんなこんなに頑張ってくれている。 ただしうちの会社を継ぐときは... ○ 会社を継ぐということには、このような責任もある。 ○ 今厳しいことは、このような点だ... |
後継者から、「父から、小さなころから"うちの会社はこんな会社で、こんなものを作っているよ"と言われて、自然と"継ぐ"という気持ちになっていった」というのは、最もよく聞く話です。 |
逆に、こんなこともよくあります。
「会社の隣が自宅ですが、小さな頃から両親が会社から帰ってきては、いつも会社のことで夫婦げんかや愚痴ばかり。疲れた...を口癖のように毎日聞かされていたので、自分は違う道に行こう、と決めていました。会社を継げ、と言われていますが、浅沼さんから、父に伝えて欲しい」と、息子さんから本音を打ち明けられたことも何度もあります。
「経営には常に厳しさがある」のは当然ですが、小さな頃から毎日「継いだ場合のマイナス面」ばかり聞かされていて、その数十年後に「是非継いでくれ...」では、なかなか難しいものです。子どもは覚えていますから...。 子どもへの事業承継中に、「本当は違う道に進みたかった...」「突然継げと言われても...」となり、頓挫してしまうことも少なからずありました。 M&Aに進んでいる過程で、子どもから「自分が継いでもよかったが、声が掛からなかったので、自分は経営者に不向きと思われた...」との話になり、親子で話が混乱して、M&Aを中止せざるを得ないこともありました。 |
事業承継については、なかなか話題にしづらいこと確かです。
しかし、その中でも少しずつでも意識的にコミュニケーションをとり、「うちはこんな会社」「こんなやりがいがある」「こんなよいことがある」を伝えていくことが重要と考えます。
後継者にしたい子どもがいる場合には、できる限り事業承継に関する考え方を共有しておくことが大事です。
③A建設会社の事例...「M&A」にて
A建設会社は、その後、M&Aに舵を切ることとなります。当社の提携先である日本M&Aセンターを紹介して、引継ぎ手を探しました。4 ヶ月の間に4 社ほど名乗りが上がり、社長同士の「トップ面談」を行いました。
どの引継ぎ手の会社にも共通だったのが、「現経営陣の継続勤務」でした。
建設業界の場合、事業拡大の一つとして、M&Aを目指す経営者は数多くいます。
その場合に、現場の管理や技術力などに加え、人手不足による「資格保持」のためにも、「旧経営者の方に引続き力をお貸し頂きたい」となることは多くあります。
A建設会社は、許認可を数多く取得していたため、引継ぎ手候補が早く、多く現れた要因の1 つと思われます。
業界は違いますが、一例として、日本酒業界が挙げられます。
日本酒は現在世界各国でブームが起こっており、財務省の貿易統計によると日本酒の輸出規模は2013 年に100 億円程でしたが、2024 年時点で、411 億円規模となり、4 倍に急増しております。これに対し、国内向け酒製造の新規免許は、70 年許可が出ておりません。
その為、新たに国内で酒製造を目指し免許を取得することを考えますと、M&Aしか手法がありません。
酒製造のケースは極端かも知れませんが、成長戦略を描く上で、免許取得のために3~4年の年月とノウハウの蓄積をコツコツ行うよりも、成長を加速する為の「時間をM&Aで買う」との考えが増えて来たと実感しています。
現在、A建設会社は、中堅規模のB工務店のグループ企業となり、仕入の効率化、外注先の統合などを積極的に行うとともに、人材の交流を開始していす。A社社長は、しばらくは社長のままで陣頭指揮を執り、その後、顧問となって引継ぎを行う計画です。
引き継いだB工務店の社長にとっては、「A社の顧客基盤・外注基盤・技術基盤をB社が培ったノウハウと融合し、更なる事業拡大を目指す絶好の機会だった」と満面の笑みで話をしていました。
④C工業所の事例...「M&A」にて
C工業所は、3 代続く極小の精密加工部品を製作加工する中小企業です。
大手メーカー1 社体制の経営には寄らず、大手数十社と売り上げシェアを均等に配分し、「どのメーカーが風邪を引いても踏ん張れる経営」を目指し地盤を固めてきました。
ある大手メーカーの「当社だけの商品に絞って生産すれば、安定的に更に多く発注する」などの声を掛けて頂いた事もありましたが、「うちの技術はトップクラス。他社ではまねできないはず。」と、多品種少ロットであったとしても、様々なメーカーの細かな要望や各社ごとの規格の違いにも柔軟に対応し、技術力の高さから選ばれ続けています。
C社長も「まだまだ現役」と考えつつも、後継者をあらためて考えるようになってきました。C社長の家族は、社長と奥様と娘さん二人。「女性の社長も最近では多くなっているので、学生の頃から、会社のことについて折を見て話し続けてはいたが、やはり難しく、娘二人は別の道を歩むことになった。」と当社へご相談を頂きました。
今まで技術を磨いてきた従業員が、今後も生き生きと働く環境づくりをしてくれる会社へ引き継いでもらいたい。また、業種的に近い又は関東圏に絞った企業ではなく、全国規模で引継ぎ手を探してほしい、などのご要望から日本M&Aセンターに相手探しを依頼しました。
相手を探すに当たり、日本M&Aセンター担当者と十数回の面談やインタビューを繰り返し、具体的にどのような技術で名が通り、どのメーカーのどの製品に使われているなどの話をしてもらいました。それに基づき、詳細な「会社概要資料」を作成することとなります。
「技術力がすごい」と大変抽象的な表現であるものを、C社長との対話を通し言語化していきます。
引継ぎ手候補は、資料作成後2~3か月程で、数十社が上がりました。トップ面談を3社行い、その中で、日本に数か所、海外の拠点も数か所ある中堅企業D社に絞って交渉することとなりました。
D社は、グループ企業のうちの主力の1 社で、C工業所と同製品を作っています。
円安基調が続くことに加え、大手メーカーのサプライチェーンの見直しから海外から日本への回帰が始まっており、D社にとっては、折からの人材確保の難しさや資材等の調達コストを下げるためなど、国外・国内サプライチェーンの変更に追いつくための成長戦略の一つとして、M&Aにて業容拡大の決断をした、とのことです。
社長同士と仲介会社で、お会いして頂いた際に意気投合し、その後、数度にわたりお互いの会社を行き来します。「同じような部品を作るにしても、生産方法に微妙な違いがあり、" 目からうろこ" の点も多くあった。技術をお互いに取り入れればもっと伸びるし、更に生産性が上がる。」と、C工業所・D社の社長とも、熱を込めて話をされていました。
お互いに技術力の高さを認め合い、シナジー効果を高く発揮できるパートナーとしてのM&Aとなり、D社の役員がC工業所の常駐の専務取締役となるべく、C社長から引継ぎを受けて、現在承継が完了しました。
C社長は、半年間の顧問を経て、完全退任となります。
事業承継の方法は次の3 つです。 ①親族承継 ⇒ ②社内承継 ⇒ ③第三者承継(M&A) |
考え方としては、まずは「①親族承継」です。子どもの適任候補がいれば、「株式」や「会社に貸している不動産」などを「相続・贈与」にて承継でき、衆目一致で理解されやすいことがメリットです。
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